バウドさんが来て下さったのですが……
日記さん。今日はボク、何を書いたらいいのかわかりません。
こんなこと、貴方にもお話していいことなのか……
でも、日記さんは誰かに言いふらしたりしませんものね。ちゃんと鍵も掛けて、誰にも見られないようにしているのですし。
だから、聞いて下さい。
本当は、こうやって起きているのも辛いけど…… 聞いていただかなければ、何だか眠れそうもないのです。
今日、母上がお立ちになりました。
母上がお出かけになってしまって、ボクはとても淋しかったです。
でも、約束どおりバウドさんが来て下さったので、それほど沈み込まずには済みました。
バウドさんは、ボクが母上と一緒に行くってダダをこねなかったことを、褒めて下さいましたよ。
褒めていただくのは嬉しいですけど、ボク、そんなにワガママな王子だと思われているのでしょうか。
ちょっと、ガッカリです。
バウドさんに父上のワインをお付き合いいただくということで、来ていただいたのですが…… 真昼間からワインというのも、何でしょう?
だから、ワインを頂くのは夕食の後でということにして。昼間は一緒にお茶をしたり、お喋りをして過ごしました。
日記さん、とても楽しい時間だったのですよ。
バウドさんのお話はとても面白くて、それに、すごく勉強になります。
こんな時間がずっと続ければいいなって、本気で思っていました。
夜にならなければいいのにって、思ったくらい。
夜になって、夕食をとって、それからワインをお付き合いしていただくって。それを楽しみに、バウドさんをお待ちしていたのに。
どうして、なのでしょうね。
夜にならなければいい、なんて…… ちょっとでも、思ったのは。
バウドさんは、昼間からずっと優しくて、ボクをとても大事に大事に扱って下さいました。
それこそ、ソファーを立つ時も手を取り、座る時も肩を抱いて下さったくらいに。
バウドさんが、あんまり優しいから…… ボク、逆に緊張してしまって。
期待してたのか? なんて、冷やかされてしまったくらい。
どうして、そんな意地悪を言うのですか。
ボクはただ、バウドさんとワインをご一緒したいって、それだけなのに。
父上のワインは、とても美味しくて。心配していたよりも、すぅっと喉を通っていく感じでした。
良い飲みっぷりですって、バウドさんも褒めて下さって。
だからボク、嬉しくて。
バウドさんと一緒にお酒を飲んでいることが、本当に、嬉しくて。
だから、もっとバウドさんに褒めて欲しいって思って…… つい、飲みすぎてしまったみたいで。
ふわふわって、頭がぼんやりして。
バウドさんがベッドに連れて行って下さったのも、わからないくらい。ふわふわって、してて。
それで。
それから、バウドさんが
バウドさんと、
ああ、ダメです。
やっぱり書けない。いくら日記さんでも、やっぱりダメです。
思い出しちゃダメです。またバウドさんの顔が見られなくなってしまいます。
そうしたら、またバウドさんに笑われてしまう。
笑われたくないです。
はしたないって、思われたくないです。
そんなことないってバウドさんは言って下さるけど、ボクは、ボクは。ボクは、なんて、ボクは、ボクは、ボクは
どうして、バウドさんは、
バウドさんは、ご自分の好きなことをなさればいいのです。バウドさんのためなら、ボクは、
ボクは、ボクは、
とにかく、落ち着きましょう。
落ち着いて。落ち着いて、落ち着いて。
すごく久しぶりだったから、ボクも動揺してしまっているだけなのです。だって、前はもっと、いつもだったのですし。
それに。
いつ眠ってしまったのか、覚えてないのですが…… 目が覚めたら、バウドさんがすぐ側にいて。
いい子だって、笑ってくれたのですよ。
とても恥ずかしくて、穴があったら入りたいくらいでしたけど。でも、バウドさんが笑って下さったから、ボクは、嬉しかったです。
ボクは、バウドさんに笑って欲しいです。
悲しい顔なんか、しないで。
いつでも、優しいバウドさんの顔で、にこにこ笑っていて欲しいです。
その為に、ボクが少しでもお役に立てるのなら。
バウドさんのお顔が、少しでも幸せそうになってくれるなら。ボクは、その、平気なのです。
本当ですよ。
でも、残念なのです。バウドさん、すぐにシャワーを浴びに行ってしまって。
もっと、バウドさんの笑ってるお顔を見たかったのに。
帰って来たら、また、何か思いつめたようなお顔になってしまっているのでしょうか。
いつも、そうです。
ボクが声を掛けると、すぐににこって笑ってくれるし。それからはまた、元のバウドさんに戻ってくださるけど。
でも、その一瞬が、すごく胸に残ってしまって。
今夜は、そんなことがありませんように。
ね、バウドさん。
明日バウドさんが来て下さいます
日記さん、バウドさんからお返事が来ましたよ。
明日、バウドさんが来て下さるそうです。喜んで伺いますって、お手紙に書いて下さってました。
ああ、ボク嬉しいです。
明日はバウドさんと一緒に、父上のワインを頂けるのです。
母上はお出かけになってしまって、とても淋しいのですが。でも、バウドさんがお城へ来て下さいます。
淋しいけど、嬉しい。
淋しいけど、きっと、幸せなのです。
ボクはどうしたらいいのでしょうか、日記さん。
母上がお出かけになってしまうことが、こんなにも淋しいのに…… バウドさんが来てくださることは、こんなにも嬉しいのです。
何だか、気持ちがごちゃまぜです。
淋しいけど、嬉しい。
嬉しいけど、淋しいのです。
母上にも、お伝えしておきました。明日、バウドさんをご招待することになりましたって。
母上も、バウドさんが来てくださるのなら安心ですねって仰ってました。
でも、バウドに迷惑をかけてはいけませんよって、そうも仰いました。
バウドにも都合があるのだから、無理に引き止めたりしてはいけませんよって。
何だか、胸がズキッとするような思いでした。
ボクは、やっぱり望んでしまっています。バウドさんが、泊まってくださることを。
バウドさんが泊まって下さったら、きっと、淋しくありません。
母上がいないのを淋しく思うのではなくて、母上のお帰りを楽しみにする…… きっと、そんな気持ちでいられるはずです。
でも、それは、ボクのワガママなのですよね。
バウドさんには、ソード君というご家族がいるのですから。
ソード君をひとり置いて、ボクのところにお泊りするなんて。そんなことは、出来ません。
いいえ、しちゃいけないと思います。
母上は、ボクのことをよくご存知です。ボクがまたワガママを言わないように、先に諌めて下さったのです。
ありがとうございます、母上。
ディーンは、ちゃんとガマンします。
でも、バウドさんだけお泊りは出来なくても、ソード君と一緒だったらいいんじゃないかな…… なんて。
そんなことも、思ったりするのですが。
でも、ソード君にだって、ソード君の都合がありますよね。
あまりワガママを言ってはいけません。ボクだけのソード君ではないのですから。
そう言えば、ソード君はどうしているのでしょう。
最近、ソード君に会ってないです。
フォルグさんのお話を聞いた時以来でしょうか。何だか、少し淋しいのです。
ソード君、今何をしていますか?
今の時間は、きっとお庭で剣の素振りをしている頃でしょうか。
また今度遊びましょうね、ソード君。
その時を、楽しみにしています。
淋しいと楽しみと不安がごちゃまぜです
日記さん、今日のボクは、ちょっとフクザツな気持ちです。
いえ、別に嫌なことがあったわけではないのですよ。ただ、淋しいことと、楽しみなことと、両方あって…… どんな気持ちでいたらいいのか、わからないのです。
とにかく、両方お話しますね。
まずは、淋しいことなのですけど。母上が、またお出かけになってしまうのです。
この前の長雨で、ブレイゲ山の麓の村に僅かな被害が出たそうなのですが…… その後の様子をご覧になるためと、それから、民たちを励ますためにと。
明後日お城を出られて、一晩向こうでお過ごしになり、翌日にはお城にお戻りになるご予定です。
だから、たった一晩のことなのですが…… 母上がいらっしゃらないのは、とても淋しいです。
ボクも、ご一緒できたらいいのに。
ボクもお供をさせて下さいとお願いしたのですが、母上は、ボクはお城を守っていなさいとおっしゃって。
私が留守の間、この城を頼みましたよ、と。
そうおっしゃられては、ボクもワガママは言えません。お任せくださいって、頷くしかないです。
ああ、いつになったらボクは母上のお供が出来るのでしょうか。
父上は、母上をいつもお連れになっていたのに。
母上がお出かけになる時は、いつもおひとり。絶対にボクを連れて行っては下さらないのです。
ボクがもっと立派な王子になれば、母上のお供が出来るのでしょうか。
何だか、淋しいのです。
母上がいらっしゃらないお城の中は、何だか灯が消えたみたいなのですよね。またそんな時が来ると思うと、本当に淋しいです。
ボクも、母上のお供がしたいのに。
ちょっとだけ、しょんぼりです。
ただね、日記さん。ちょっと楽しみなことも、ひとつあるのですよ。
今日、父上に捧げたあのワインを、教会の方が届けに来て下さったのです。
今はボクが引き取って、ワイン庫にしまっておいてもらっています。いつでも、美味しい状態でいただけるようにって。
だって、バウドさんに飲んでいただくワインですからね。
バウドさんは、お酒にはきっとうるさいはずです。美味しいワインを差し上げなければ、失礼です。
もっとも、あのワインは、昔父上とバウドさんが好きだったワインだそうです。
だからきっと、バウドさんも喜んで下さいますよね。
ワインがボクのところに来たので、さっそくバウドさんにお手紙を書きました。遊びに来て下さいって、ご招待のお手紙です。
それでね、日記さん。
実はボク、お手紙に明後日の夜はいかがですか? って書いてしまったのです。
母上がお出かけする日、なのですけど。
本当だったら、バウドさんのご都合をお聞きするべきなのですよね。こちらから日にちを指定して来ていただくなんて、失礼だとは思ったのですが。
でも、母上がいらっしゃらない日を、独りっきりで過ごすなんて。そんなの、淋しくて。
もしもバウドさんが遊びに来て下さったら、とても心強いのです。
それに、もしご迷惑でなければ、泊まっていただけたら、なんて…… そんなことも、ちょっと思っているのですけど。
ああ、でもだめです。
そんなこと、バウドさんにお願いは出来ません。
もしボクがそんなワガママを言って、バウドさんがしかたなく泊まって下さることにでもなったら。それでは、申し訳ないです。
昔のボクは、そうやって、ずいぶんバウドさんにご迷惑をかけました。
父上と母上がお出かけになる度に、バウドさんに無理を言って、何日も泊まっていただいて。ソード君とソード君のお母上には、とても淋しい思いをさせてしまいました。
本当は、バウドさんに泊まっていただきたいけど。
でも、絶対にダメです。ボクからそんなお願いはしてはいけません。
明後日に来て欲しいなんて、それだけでもワガママを言っているのですから。これ以上を望むなんて、いけませんよね。
でも。
でもね、日記さん。
もしも。もしもですよ。バウドさんがね、バウドさんご自身から、泊まって行くと言って下さったら……
そうしたら、それって、ボクのワガママにはならないのでしょうか。
ねぇ、日記さん。
バウドさんが、あのワインを気に入って下さったら。
あのワインを気に入って、気に入って…… ボクと一緒に、楽しい時間を過ごしていただけたら。
そう、父上と一緒に過ごした時みたいに。
そうしたら、バウドさんは、ここに泊まっていって下さるでしょうか。
正直、ボクには自信はありません。
ボクはお酒もあまり飲めませんし、お喋りだってそんなに得意と言うわけではないです。よく見当違いなことを言って、バウドさんに笑われてしまうくらいで。
でも。
ボクは、バウドさんに泊まっていっていただきたいです。
さようならをしないで、ボクの側にいて欲しいのです。
どうしたら、ボクの気持ち、バウドさんに伝わるでしょうか。
口で言ってはワガママになってしまうし、そうかと言って、どうしたらいいのか。
ああ、そんなことよりも、まず明後日バウドさんが来て下さるかが心配です。
明後日のことですから、きっと明日お返事が来るでしょう。
バウドさんは、何てお返事を下さるのでしょうか。
何だかドキドキします。ドキドキして、眠れそうもないくらい。
でも、また何か失敗をして大臣に叱られると困るので、とにかくベッドに入ろうと思います。
おやすみなさい、日記さん。
また、明日です。
ボクも父上のように、バウドさんと……
日記さん、今日はとても嬉しいことがあったのですよ。
今日は、お城にバウドさんが来て下さったのです。
いつものように、魔法の研究成果を母上に報告しに来てくれたのです。だから、遊びに来てくれたわけではないのですが。
でも、丁度謁見の間の前でお会いできたので、母上がお出ましになるまでの間、バウドさんとお話することが出来ました。
本当に、バッタリだったのですよ。
鍛錬に行こうと思って一階へ下りたのですが、何となく気になって謁見の間の方へ行ってみたら…… そこへ、丁度バウドさんがいらっしゃったのです。
日記さん、偶然ってあるものですね。
それとも、誰かがボクに教えてくれたのでしょうか。今謁見の間の方へ行けば、バウドさんに会えるよって。
そんな方は、父上しかいません。
ありがとうございます、父上。きっと、父上がボクを導いてくださったのですね。
もしかしたら、父上もバウドさんに会いたかったのかもしれません。
父上とバウドさんは、とても仲の良いお友達だったそうです。ボクも、父上とバウドさんが仲良くお喋りしてるところを見たことがあります。
何だか、ボクとソード君みたいですね。
父上とバウドさんは、大人になっても仲良しでした。
だから、ボクとソード君も、きっと大人になっても友達でいられるだろうなって、ボクは思います。
何だか、ちょっと安心しますね。
そうそう、今日はソード君は一緒ではなかったのですよ。それは少し残念でした。
今度は息子も連れて来ましょうって、バウドさんが約束してくれました。
ソード君と会えなかったのは残念ですが、バウドさんと会えただけで、ボクはとても嬉しかったです。
昨日会えるかと思ったのに、入れ違いだったのですから。
そうそう、聞いて下さい日記さん。嬉しかったのは、バウドさんに会えたことだけではないのです。
昨日父上に差し上げたワインのことを、バウドさんにお話したのですよ。
母上がボクが頂きなさいっておっしゃってたことも、ボクはお酒が得意ではないので、あまり自信がないのですってことも。
そうしたら、バウドさんが約束して下さったのです。
ご連絡下さればすぐに参上して、お付き合いさせて頂きますぞ、って。
バウドさんが一緒にワインを飲んでくださるのですよ、日記さん。父上が好きだったワインを、バウドさんが一緒に。
ああ、ボク嬉しいです。
本当に嬉しかったのですよ、日記さん。嬉しくて嬉しくて、わぁって大きな声を出してしまいました。
その時のボクの嬉しい気持ち、わかりますか?
思い出すだけで、胸がドキドキします。今でも、すごく嬉しいのです。
だって、バウドさんがボクとお酒を飲んで下さるのですよ。
まるで、父上みたいに。
父上とバウドさんは、よく一緒にあのワインを酌み交わされたそうです。そのワインを、ボクが、バウドさんと一緒に。
嬉しいです、ボク。
こんなに嬉しいのが、不思議なくらいです。
思い出せば、前にもそうやって約束してくださったこともありましたけ。
ボクが紅茶に入っていたブランデーで酔ってしまった時に、いつか、お酒の飲み方を教えて下さるって。
でも、飲み方を教えてもらうのと、一緒に酌み交わすのとって、少し違うような気がしませんか?
もちろん、バウドさんから教えていただくのは嬉しいことです。
バウドさんには、どんなことでも教えていただきたいです。もっともっと、ボクに色々なことを教えて欲しいです。
だから、バウドさんとの嬉しい約束が、ふたつになりました。
バウドさんが、ボクにお酒の飲み方を教えてくださること。
その時は、ただボクに教えるだけではなくて…… バウドさんも、一緒に酌み交わして頂くこと。
そう、父上と、バウドさんみたいに。
そうは言っても、ボクはまだあまりお酒が飲めませんし。父上のように、とはいかないかもしれませんが。
それでも、ボク、頑張りますよ。
バウドさんが楽しくお酒を飲んで下さるように、ボクも頑張ります。
だって、父上と酌み交わされていたバウドさんは、とても楽しそうだったのですから。
だから、ボクと一緒の時も、楽しい気持ちになっていただきたいのです。
父上、ボクに力をお貸し下さいね。
この前みたいな失態はしないように、ボク、頑張ります。
また、父上の月命日です
日記さん。今日は、父上の月命日です。
ボクは今日も母上にお許しをいただいて、父上のお墓参りに行きました。
今日こそ、母上もご一緒出来たらいいなと思っていたのですが…… 母上は、今日もお忙しいみたいで。とても残念です。
母上からお供えのワインをお預かりして、ボクひとりでお墓参りに行きました。
今日の母上は、少し機嫌が良かったみたいです。
父上の月命日にお会いする母上は、いつも、あまり元気そうに見えません。ボクも、とても心配なのです。
でも、今日の母上は少し元気そうでした。
一緒に行けないのをとても残念がられて、ボクにお土産を託して下さったのです。
父上が好きだったワインだそうですよ。よく、バウドさんと一緒に楽しまれたのですって。
父上に差し上げて、後は貴方が頂きなさいって。母上は、そう仰いました。
父上は、今はボクの中にお住まいです。だから、ボクがあのワインをいただけば、父上の楽しんでくださることになるかもしれませんが……。
でも。困りました、日記さん。
ボクは、あまりお酒は得意ではないのです。ボクに、あのワインが飲めるかどうか。
一応教会の方にお願いして、後でお城へ届けていただくようにお願いしておきましたけど。
でも、困りました。
ねぇ、父上。ディーンはどうしたらいいでしょう。
まぁお土産のことはさておき、お墓参りにはちゃんと行きましたよ。
今日も、教会の丘で花を摘んでから行きました。
バウドさんにお会い出来るかなって、ちょっと期待してたのですが…… 残念ながら、入れ違いだったようです。
父上の墓前に、バウドさんのらしき花束と、ブランデーの瓶が置いてありました。
バウドさんのお土産は、いつもお酒です。
父上、いつかボクにそれも飲めとかおっしゃいませんよね?
いえ、父上がお望みならば、ボクも努力はしますが…… あまり、自信はないのです。
父上には、いつものように色々なことをお話しました。
母上のこと、国のこと。それから、ボクも相変わらず元気ですってことも。
もちろん、父上はそんなことはとっくにご存知だとは思いますが。でも、お墓参りというのは、そうやってするものなのだそうですからね。
また伺いますとお約束して、お城に戻りました。
母上にご報告すると、母上はとても喜ばれて、ボクを労って下さいました。
ボクを見て、とても嬉しそうに目を細めて下さるので。何だかボク、恥ずかしくなってしまうくらいでしたよ。
ボクが父上のお墓参りに行くと、母上はとても喜んで下さいます。
だから、いつかは母上と二人でお墓参りに行きたいと思っているのですが…… なかなか、その時がやって来ません。
来月こそはご一緒しましょうね、母上。
いつもいつも、そう言うのですが。母上は、ただ笑って頷かれるだけで。
母上はいつもお忙しいです。女王様なのですから。
だから、仕方がないことではあるのですが。
でも。
ねぇ、日記さん。
思えば、ボクが父上のお墓参りに行くのに、母上とご一緒出来たことって一度もありません。
母上と一緒に父上に会いに行ったことも、数えるくらいではないでしょうか。
それも、ボクと二人だけではなくて、家臣達と一緒の時だけです。
母上は、お墓参りが嫌いなのでしょうか。
確かにお墓はとても淋しいところですが、父上がお休みになっている所なのです。ボクは、嫌いではありません。
それに、母上だって嫌いではないはずです。
母上は、今でも父上のことを愛しておられます。父上が眠っておられるお墓なのですから、母上だってきっと嫌いではないはずです。
きっと。
たぶん。
ねぇ、日記さん。
父上が眠っておられる、って書いたら…… 何だか、淋しくなってしまいました。
バウドさんはおっしゃいました。父上は、ボクの中にお住まいなのだと。
父上は、確かにあのお墓に眠っておられます。でも、今の父上のお住まいは、このボクの中なのです。
だから、淋しいなんて思う必要は、ないのですよね。
時々母上は、とても淋しそうなお顔をされます。
父上が、いらっしゃらないからです。
いつも、いつも思います。どうやったら、ボクの中の父上を、母上にお見せすることが出来るのかと。
どうやったら、ボクが…… 父上の代わりに、なれるのかと。
難しいですね、日記さん。
ボクには、どうしたらいいのか、わかりません。







